持ち家でリタイアが4年遅れた原因は、金利ではありませんでした|DINKsのFIRE試算 番外編
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夫婦ともに35歳・世帯年収1,000万円(手取り806万円)・子どもを持たない選択というモデルケースで、何歳で仕事を辞められるかを家計調査(総務省)2025年の実測値から試算しています。本編(全5回)は賃貸前提でした。この記事は番外編として、EP5で「別計算になります」と書いた持ち家の場合を試算します。
- EP1 現状把握:45歳FIREは届くのか
- EP2 支出最適化:退職年齢を決める3つのレバー
- EP3 非課税枠:NISAの枠は何年で埋まるか
- EP4 リスク:退職直後の暴落は18年縮める
- EP5 最終プラン:セミリタイアで動くのは0〜2年
- 番外編 持ち家にすると何年遅れるか(この記事)
前提の一覧と結論のまとめはシリーズのトップページにあります。
結論から:リタイアは3〜5年遅れました。でも原因は金利ではありませんでした
DINKsシリーズ(EP1〜EP5)では、賃貸に住み続ける前提で試算してきました。最後に「持ち家の場合は別計算になります」と書いたので、その続きです。
同じ夫婦・同じ収入・同じエンジンで、賃貸を持ち家に差し替えました。
| 名目利回り | 賃貸 月12万 | 持ち家(新築マンション) | 差 |
|---|---|---|---|
| 3%(保守) | 64歳 | 67歳 | 3年 |
| 4%(基準) | 62歳 | 66歳 | 4年 |
| 5%(楽観) | 60歳 | 65歳 | 5年 |
※生活水準S2標準型。完全リタイア=資産が95歳まで持つ最短の年齢
遅れます。ただ、調べてみたら遅らせていたのは月21万円のローンではありませんでした。
ローン返済だけを取り出すと、賃貸とほぼ同じか少し早いくらいです。4年を作っていたのは、ローンを完済しても終わらない費用でした。
「今買わないと、金利がもっと上がる」
このシリーズの夫婦は35歳の共働き、子どもを持たない選択をしています。世帯年収1,000万円、手取り806万円。実在の個人ではなく、家計調査などをもとに構成したモデルケースです。
EP1から賃貸前提で試算してきましたが、2人には気になっていることがありました。
住宅ローンの金利が、上がり続けているというニュースです。
実際、2026年のフラット35はこう動きました。
| 時期 | 金利 |
|---|---|
| 2026年1月 | 2.08% |
| 2026年7月 | 3.14% |
| 2026年8月 | 3.29% |
| 2026年9月 | 3.46% |
| 2026年10月 | 3.83% |
現行制度(2017年10月以降)で最も高い水準です。日銀の政策金利も9月18日に1.25%へ引き上げられました。
「今買わないと、もっと上がる」。そう考えるのは自然です。一方で「この金利で買って大丈夫なのか」という不安もあります。
どちらの不安も、試算すれば数字になります。
前提を公開します
持ち家側の前提です。すべて出所を併記します。
| 項目 | 値 | 出所 |
|---|---|---|
| 物件価格 | 5,882万円 | フラット35利用者調査 2025年度 マンション全国平均 |
| 頭金 | 1,000万円 | この記事での設定値(初期金融資産1,358万円のうち) |
| 借入 | 4,882万円/35年/元利均等 | — |
| 金利 | 年3.83% | 住宅金融支援機構 2026年10月1日公表(融資率9割以下・返済期間21〜35年の「最も多い金利」) |
| 管理費 | 月11,503円 | マンション総合調査 |
| 修繕積立金 | 月13,054円 | 同(築25年で約1.8倍まで上昇) |
| 固定資産税・都市計画税 | 月19,566円(新築軽減1〜5年)→ 月29,859円(6年目以降) | 制度は公式。評価額は設定値 |
| 住宅ローン控除 | 省エネ基準適合・限度2,000万円・0.7%・13年 | 2026年入居の制度(令和7年の3,000万円から引き下げ) |
| 比較する賃貸 | 月12万円(都市部2LDK)/賃料上昇2% | — |
物件価格5,882万円は高く見えますが、フラット35でマンションを買った人の全国平均です。同じ区分の平均世帯年収は1,041万円で、このペルソナの1,000万円とほぼ同じです。無理な背伸びの前提ではありません。
月の住居費は25.5万円になります
| 項目 | 月額 |
|---|---|
| ローン返済 | 211,213円 |
| 管理費 | 11,503円 |
| 修繕積立金 | 13,054円 |
| 固定資産税・都市計画税 | 19,566円 → 6年目以降 29,859円 |
| 合計 | 255,336円 → 6年目以降 265,629円 |
| 賃貸(都市部2LDK) | 120,000円 |
| 差 | 135,336円 → 6年目以降 145,629円 |
月13.5万円の差です。年間162万円。これが退職年齢を動かします。
なお返済比率は年253.5万円÷額面1,000万円=25.3%です。金融機関の審査基準は額面の30〜35%が一般的なので、3.83%でも審査上は通る水準です。この前提は破綻していません。
4年の正体:要因を1つずつ外しました
ここが、この記事で一番お伝えしたいところです。
持ち家が遅れる理由を「金利が高いから」で済ませず、要素を1つずつ取り除いて試算し直しました(名目利回り4%・S2標準型)。
| ケース | 完全リタイア |
|---|---|
| 賃貸 月12万(基準) | 62歳 |
| 持ち家 フル | 66歳 |
| └ 固定資産税を外す | 65歳 |
| └ 管理費・修繕積立金・固定資産税を全部外す | 62歳(賃貸と同じ) |
| └ 頭金を出さない(全額借入5,882万円) | 65歳 |
| └ 頭金なし+維持費なし(ローンだけ) | 61歳(賃貸より1年早い) |
維持費を外すと、賃貸と同じ62歳に戻ります。
さらにローンだけにすると、賃貸より1年早くなります。利回り3%・5%でも同じ結果で、ずれは±1年に収まりました。
なぜローンだけだと早いのか。ローンは70歳で終わりますが、家賃は95歳まで続くからです。
| 月額 | 総額 | 期間 | |
|---|---|---|---|
| 全額借入5,882万円/35年/3.83% | 254,476円 | 10,688万円 | 35年で終わる |
| 家賃12万円(年2%上昇) | 120,000円 | 16,423万円 | 60年払い続ける |
では、4年を作っていたものは何か。 完済しても終わらない費用です。
35年のローン返済は総額8,871万円。これに対して管理費・修繕積立金・固定資産税は、60年で8,620万円になります。
しかも70歳で完済した後も、95歳まで毎月払い続けます。
月21万円という数字に目が行きますが、退職年齢を4年動かしていたのは月2.5万円の管理費・修繕積立金と、月2〜3万円の固定資産税でした。
持ち家の試算を、自分の数字で引き直す
借入額・金利・返済期間を入れると、資産が95歳まで持つ退職年齢が出ます。管理費・修繕積立金・固定資産税も繰り返し支出として登録できるので、完済後に残る費用まで含めて試算できます。住居費がまだ曖昧な場合は、先に家計コンパスで支出を整理してから試算できます。
金利を2.5pt動かしても、1年しか変わりません
「金利が高い月に買ったのが悪かったのでは」と考えて、金利だけを振ってみました。
| 金利 | 月返済 | S1節約 | S2標準 | S3ゆとり |
|---|---|---|---|---|
| 1.30% | 144,743円 | 62歳 | 65歳 | 68歳 |
| 2.08%(2026年1月) | 163,734円 | 63歳 | 65歳 | 68歳 |
| 3.00% | 187,884円 | 64歳 | 66歳 | 69歳 |
| 3.83%(2026年10月) | 211,213円 | 65歳 | 66歳 | 70歳 |
| 4.50% | 231,044円 | 65歳 | 67歳 | 70歳 |
1.30%から3.83%へ2.5pt動かしても、S2標準型の退職年齢は65歳→66歳の1年です。
ローンは70歳で終わるのに、維持費は95歳まで続く。だから金利を動かしても、効く範囲が限られます。
変動金利ならどうなるか
いま変動金利は、固定よりかなり低い水準にあります。2026年10月の引下げ適用後の表面金利は、イオン銀行1.120%、三菱UFJ銀行1.195%、みずほ銀行1.275%、三井住友銀行1.525%。固定3.83%との差は2.5pt超で、過去最大の水準です。開始金利1.30%(メガバンクの中位)で、4つの金利パスを通しました。
到達水準とスピードは、統計ではなくシナリオです。 将来の金利は誰にも分かりません。
| シナリオ | 初年月額 | 最終月額 | 総返済 | S2退職 |
|---|---|---|---|---|
| 固定 3.83%(基準) | 211,213円 | 211,213円 | 8,871万円 | 66歳 |
| 変動 据え置き1.30% | 144,743円 | 144,743円 | 6,079万円 | 65歳 |
| 変動 5年で2.05%へ | 144,743円 | 161,508円 | 6,724万円 | 65歳 |
| 変動 10年で3.83%へ | 144,743円 | 201,155円 | 8,082万円 | 66歳 |
| 変動 15年で5.50%へ | 144,743円 | 236,151円 | 9,067万円 | 66歳 |
月額は6.6万円下がります。ただし総返済が2,988万円も動くのに、退職年齢は1年しか動きません。
退職年齢は整数年なので差が潰れます。65歳退職に揃えて金額で見ると、はっきりします(2026年基準の実質)。
| シナリオ | 65歳時の資産 | 95歳の残高 | 資産が尽きる年齢 |
|---|---|---|---|
| 固定 3.83% | 3,067万円 | 0 | 88歳 |
| 変動 据え置き1.30% | 4,382万円 | 1,663万円 | なし |
| 変動 5年で2.05%へ | 4,074万円 | 998万円 | なし |
| 変動 10年で3.83%へ | 3,429万円 | 0 | 92歳 |
| 変動 15年で5.50%へ | 2,980万円 | 0 | 86歳 |
| 賃貸 月12万(参考) | 7,270万円 | 5,050万円 | なし |
金利タイプの選択は、65歳時の資産を2,980万〜4,382万円の間で動かします(差1,402万円)。資産が尽きる年齢も86歳〜無限まで変わります。小さい差ではありません。
ただ、同じ表の最下段を見てください。持ち家と賃貸の差は2,888万円です。
もう一つ気づいたことがあります。変動のストレスシナリオ(15年で5.50%・総返済9,067万円)でも、現在の固定3.83%(8,871万円)とほぼ並びます。今の固定金利は、相当の金利上昇を織り込んだ水準と読めます。
生涯で払う額は、ほぼ引き分けでした
60年分(35歳〜95歳)の住居費を名目で積み上げました。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 賃貸 月12万円(年2%上昇) | 16,423万円 |
| 持ち家 ローン返済 | 8,871万円(うち利息3,989万円) |
| 持ち家 維持費 | 8,620万円 |
| 持ち家 頭金 | 1,000万円 |
| 持ち家 合計 | 18,491万円 |
| 差 | 持ち家が2,068万円多い |
さらに、持ち家は95歳の時点で物件が残ります。建物は60年で実質ゼロとしても、土地持分が20〜30%残るとして1,176万〜1,765万円(2026年基準の実質・地価が実質横ばいの想定)。これを差し引くと、差は数百万円まで縮みます。
頭金1,000万円が複利の効く時期に資本を抜き、維持費が完済後も終わらない。だから「いくら払うか」は互角でも、「いつ辞められるか」は3〜5年ずれます。
崩れる条件
可能性を示すなら、崩れる条件も同じ重さで書きます。
持ち家側が楽観的に出ている点
- 大規模修繕の一時金を入れていません。修繕積立金の上昇(築25年で1.8倍)は入れましたが、不足時の一時金徴収は含みません
- 専有部の設備交換(給湯器・エアコン・水回り)を入れていません
- 購入諸費用(登記・仲介・ローン事務手数料)は一次統計を持たないため本線から外しました。物件価格の4%=235万円とすると、S2標準型は66歳→67歳になります
- 固定資産税の評価額は設定値です。含めない場合、S2標準型は66歳→65歳になります
賃貸側が楽観的に出ている点
- 60年間、同じ家に住み続けられる前提です。建て替え・取り壊しによる退去は入れていません
- 高齢期の入居審査の難しさも入れていません
変動金利について
- 実際の変動金利には5年ルール(5年間は返済額を据え置く)と125%ルール(見直し時の増額上限)があります。この試算では金利見直しのたびに返済額を再計算しました。5年ルールは利息の先送り(未払利息)なので、総額では増える場合があります
前提が変われば答えも変わります。だから、自分の数字で引き直すのが一番確かです。
みらいコンパスで自分の数字を入れる
この試算は、すべて自分の数字で再現できます。
- 月収入には手取りを入れます(額面ではありません)
- 昇給率を物価上昇率と同じ2%にします(0%だと実質の貯蓄余力が年々消えます)
- 月の生活費に住居費を含めません
- ライフイベントの「住居計画」で持ち家を選び、借入額・金利・返済期間・返済開始年を入れます
- 頭金は金融資産から引いておきます(この試算では1,358万円→358万円)
- 管理費・修繕積立金・固定資産税を、繰り返し支出として別に登録します。ここを入れ忘れると持ち家が実際より良く出ます
- 住宅ローン控除の区分(長期優良/ZEH水準/省エネ基準適合/その他)を選びます
- 配偶者のリタイア年齢も設定します(未設定だと働き続ける前提になります)
- 物価上昇率2%、実質値表示をONにします
- 最後にストレステストで暴落を入れ、それでも持つ退職年齢を探します
6番がこの記事の要点です。 管理費・修繕積立金・固定資産税を入れるかどうかで、答えが3〜5年変わります。
変動金利を試すときは、借換イベントで金利を段階的に差し替えると、金利が上がっていく道筋を試算できます。
この試算が当てはまらない人
- 子どもを持つ選択をした場合(教育費で前提が崩れます)
- 戸建ての場合(管理費・修繕積立金の代わりに、自分で修繕費を積む形になります)
- 中古物件の場合(住宅ローン控除の限度額と期間が変わります)
- 年収が大きく違う場合(借入可能額も、生活費の水準も変わります)
本ケースは実在の個人ではなく、家計調査・フラット35利用者調査・マンション総合調査などをもとに構成したモデルケースです。
買うか借りるかは、お金だけで決まる話ではありません。この記事が出せるのは「いつ辞められるかが何年ずれるか」という一面だけです。そのうえで、決め手になりそうなのは金利タイプよりも、完済したあとも終わらない費用をいくらと見込むかでした。
- ← 本編の最終回:EP5 最終プラン:セミリタイアで動くのは0〜2年
- ← 最初から読む:EP1 現状把握:45歳FIREは届くのか
この記事は番外編です。本編5回分の前提と結論はシリーズのトップページにまとめてあります。
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